ナンパクラブ
放課後の教室でうーんと揃って頭を悩ませる。
ただし机の上にはノートも教科書も何も無い。それはつまり学校の勉強でも塾の勉強でもとにかく勉強ではないわけで。
そもそも燐と廉造というこの二人で勉強が成立するわけが無い。
「やっぱナンパ成功させるにはモテルヤツ参考にしなきゃならんわ」
パタンと手を机の上に付いて立ち上がる。
目を合わせた男はそのままだるんと机にへばりついたまま。
「モテルヤツって誰だよ……」
言ってから自分で気づく。最も身近で最近そのモテざまを見てしまった双子の弟の顔がばっちり燐の頭の中に浮かんだ。
そうだよあいつ、昔はいじめられてばっかりでモテるような奴じゃなかったのに高校に入ったら急に。
そう、急にだ。
廉造と同じく机に身を乗り出すように立ち上がって叫ぶ。
「雪男!あいつなんでかモテんだよ……ただの眼鏡なのに」
弁当は俺が作ってるのに料理できる男子っていいよねとか言われるし。雪男ができるのはただ盛り付けだけだっつの。
だが勢い良く上げたモテ男例はいまいち教師意外の顔を知らない廉造にはピンとこなかったらしい。
別にモテルことに否定的なわけではない。ただ大人すぎてもてるのは当然だと思うだけで。
「まぁ実際センセは頭ええし、格好ええやん」
「俺双子だぞ?」
「ぜんぜん似てへんもん」
「……おまえ酷ぇ」
瞬殺で粉砕されてべちょりと再び燐が机に突っ伏す。
(いや確かに俺と雪男って双子っつっても全然似てねぇけどさ……)
性格だけじゃない。顔だってあまり似ていると言われたことは無い。並んでいれば兄弟には見えるけれど、と言ったところか。
二卵性だから当然と言うべきか。それでもどこかしら似ているところがあるんじゃないかとやっきになって探す。
(んーどこだ?似てるところ探すのって結構苦労すんだよな……)
聞いてしまえばいいのかもしれないけれど。
鏡が欲しい。それから雪男が。並べてみればきっと一目瞭然なのに。やはり比べる人間がその場に居ないといかんともしがたい。
というかその時点で多分あまり似ていない。
「あとはそうやなぁ……お、知ってはる?坊かてあれでモテルんやで」
「えぇ!勝呂は絶対男モテだろ。顔こえぇじゃん」
「そこが硬派でいいって女の子もいるんやて。いかつい顔してめっちゃ頭ええなんてギャップに女の子は弱いしなぁ」
硬派でも頭がいいでもなく、食いついたところにそこかとツッコム。
いやでも盲点だった。
「ギャップか……」
「そうや、ギャップや……」
辿りついた言葉を噛み締めるように互いに繰り返す。
頭がいいとか、顔がいいとか、性格がいいとか、そんなモテて当然な要素は参考にならない。
できたらそもそもそんな話は出ない。
身近なものを振り返ってみた甲斐があった。結構な収穫だ。
あーそれかと呟きながら燐は反対に椅子側に反って体を伸ばす。ぶらぶらと揺らす腕が逆さまの視界を揺らす。
(んーでもまてよ。ギャップってことは今の元々のところも振り返らないと駄目じゃね?)
腹筋に力を入れて反動をつけて身を起こす。
じっと見るのは当然ながら目の前の人間だ。
廉造は細身で背が高い。顔はどっちかというととっつきやすい可愛い系か。(当社比:勝呂)
これはなんだ。わりと普通に。
「つーかおまえもモテんじゃねぇの?」
「それがなぁ……いまいちやのん」
なんでやろなーと嘆く廉造の軽い応えにああ、と納得する。
軽すぎる。その答えが見た目そのものでなんか軽い。
いくら話しやすいと言ってもちゃら過ぎると敬遠されるのが世の常だ。
「友達で終わるタイプか」
「ちょっとなんやの奥村君納得すんなやー!」
「えぇ?志摩が言ったんじゃんか」
けろりとした当然のごとき正論は結構えぐい。
あっさりモテない側へ分類された廉造は再びガクリと肩を落として上目で燐を見やる。
「奥村君かてそうやん」
「はぁ?」
「奥村君かていい人で終わる典型やろー」
何を言ってるんだろうこいつ。
俺がいい人とか、ありえないだろ。自慢じゃないが、女から悪魔と呼ばれたことはあってもいい奴と呼ばれたことは無い。
「ない、つか女は俺なんか恐がって近寄ってこねぇよ」
「杜山さんと仲ええやないの」
「しえみはなんつーかちょっと、あれだ。出会い方が特殊なんだよ」
「出会い方とかまー妬けるわー」
にししと笑いながら廉造は手を伸ばして燐の額に触れた。じぃっと見るのは燐の評価返しなのだろうが。
なんとなく居心地が悪い。
なんとなく近くて、なんとなく視線が真剣で。
おもむろに前髪を掻き分ける。
「奥村君はさーこう、七三分けにしてみたらちょっと頭良くみえるんちゃう?」
なんとも雪男みたいな回答だ。
ふざけんなと声を荒げる前に目が合った瞬間に廉造は噴出した。
「ぶっ……」
「……おい」
「悪っ……ぶくく……あーやば、奥村君めっちゃ可愛いでこれ」
「ふざけんなマジふざけんな」
わりかし凶悪なこの目つきで可愛いとか目が腐ってるとしか言いようが無い。
ていうかギャップの話をしてるのに七三で頭良く見えるって、実は馬鹿ですとかそんなギャップか。それでいいのか。趣旨が違わないか。
考えているうちに。
「あー!てかもうこんな時間じゃねーか」
「そやね。塾行かな」
額に触れた手が離れた。
居心地の悪さの変わりに一抹の寂しさを感じて首を傾げる。
「結局予習できへんかったなぁ」
「やる気あったのかよ……?」
あははははと笑う。どう考えてもやる気がない会話しかしていない。
というかこの広がりもしない綺麗な机が証拠だ。
「おら、塾行くぞ」
放課後の教室で、塾の教室へ繋がる鍵を回す。
そこから先は学校の授業でも、任意所属のクラブ活動でもなくて。
職業的訓練時間――塾の時間だ。
ただし机の上にはノートも教科書も何も無い。それはつまり学校の勉強でも塾の勉強でもとにかく勉強ではないわけで。
そもそも燐と廉造というこの二人で勉強が成立するわけが無い。
「やっぱナンパ成功させるにはモテルヤツ参考にしなきゃならんわ」
パタンと手を机の上に付いて立ち上がる。
目を合わせた男はそのままだるんと机にへばりついたまま。
「モテルヤツって誰だよ……」
言ってから自分で気づく。最も身近で最近そのモテざまを見てしまった双子の弟の顔がばっちり燐の頭の中に浮かんだ。
そうだよあいつ、昔はいじめられてばっかりでモテるような奴じゃなかったのに高校に入ったら急に。
そう、急にだ。
廉造と同じく机に身を乗り出すように立ち上がって叫ぶ。
「雪男!あいつなんでかモテんだよ……ただの眼鏡なのに」
弁当は俺が作ってるのに料理できる男子っていいよねとか言われるし。雪男ができるのはただ盛り付けだけだっつの。
だが勢い良く上げたモテ男例はいまいち教師意外の顔を知らない廉造にはピンとこなかったらしい。
別にモテルことに否定的なわけではない。ただ大人すぎてもてるのは当然だと思うだけで。
「まぁ実際センセは頭ええし、格好ええやん」
「俺双子だぞ?」
「ぜんぜん似てへんもん」
「……おまえ酷ぇ」
瞬殺で粉砕されてべちょりと再び燐が机に突っ伏す。
(いや確かに俺と雪男って双子っつっても全然似てねぇけどさ……)
性格だけじゃない。顔だってあまり似ていると言われたことは無い。並んでいれば兄弟には見えるけれど、と言ったところか。
二卵性だから当然と言うべきか。それでもどこかしら似ているところがあるんじゃないかとやっきになって探す。
(んーどこだ?似てるところ探すのって結構苦労すんだよな……)
聞いてしまえばいいのかもしれないけれど。
鏡が欲しい。それから雪男が。並べてみればきっと一目瞭然なのに。やはり比べる人間がその場に居ないといかんともしがたい。
というかその時点で多分あまり似ていない。
「あとはそうやなぁ……お、知ってはる?坊かてあれでモテルんやで」
「えぇ!勝呂は絶対男モテだろ。顔こえぇじゃん」
「そこが硬派でいいって女の子もいるんやて。いかつい顔してめっちゃ頭ええなんてギャップに女の子は弱いしなぁ」
硬派でも頭がいいでもなく、食いついたところにそこかとツッコム。
いやでも盲点だった。
「ギャップか……」
「そうや、ギャップや……」
辿りついた言葉を噛み締めるように互いに繰り返す。
頭がいいとか、顔がいいとか、性格がいいとか、そんなモテて当然な要素は参考にならない。
できたらそもそもそんな話は出ない。
身近なものを振り返ってみた甲斐があった。結構な収穫だ。
あーそれかと呟きながら燐は反対に椅子側に反って体を伸ばす。ぶらぶらと揺らす腕が逆さまの視界を揺らす。
(んーでもまてよ。ギャップってことは今の元々のところも振り返らないと駄目じゃね?)
腹筋に力を入れて反動をつけて身を起こす。
じっと見るのは当然ながら目の前の人間だ。
廉造は細身で背が高い。顔はどっちかというととっつきやすい可愛い系か。(当社比:勝呂)
これはなんだ。わりと普通に。
「つーかおまえもモテんじゃねぇの?」
「それがなぁ……いまいちやのん」
なんでやろなーと嘆く廉造の軽い応えにああ、と納得する。
軽すぎる。その答えが見た目そのものでなんか軽い。
いくら話しやすいと言ってもちゃら過ぎると敬遠されるのが世の常だ。
「友達で終わるタイプか」
「ちょっとなんやの奥村君納得すんなやー!」
「えぇ?志摩が言ったんじゃんか」
けろりとした当然のごとき正論は結構えぐい。
あっさりモテない側へ分類された廉造は再びガクリと肩を落として上目で燐を見やる。
「奥村君かてそうやん」
「はぁ?」
「奥村君かていい人で終わる典型やろー」
何を言ってるんだろうこいつ。
俺がいい人とか、ありえないだろ。自慢じゃないが、女から悪魔と呼ばれたことはあってもいい奴と呼ばれたことは無い。
「ない、つか女は俺なんか恐がって近寄ってこねぇよ」
「杜山さんと仲ええやないの」
「しえみはなんつーかちょっと、あれだ。出会い方が特殊なんだよ」
「出会い方とかまー妬けるわー」
にししと笑いながら廉造は手を伸ばして燐の額に触れた。じぃっと見るのは燐の評価返しなのだろうが。
なんとなく居心地が悪い。
なんとなく近くて、なんとなく視線が真剣で。
おもむろに前髪を掻き分ける。
「奥村君はさーこう、七三分けにしてみたらちょっと頭良くみえるんちゃう?」
なんとも雪男みたいな回答だ。
ふざけんなと声を荒げる前に目が合った瞬間に廉造は噴出した。
「ぶっ……」
「……おい」
「悪っ……ぶくく……あーやば、奥村君めっちゃ可愛いでこれ」
「ふざけんなマジふざけんな」
わりかし凶悪なこの目つきで可愛いとか目が腐ってるとしか言いようが無い。
ていうかギャップの話をしてるのに七三で頭良く見えるって、実は馬鹿ですとかそんなギャップか。それでいいのか。趣旨が違わないか。
考えているうちに。
「あー!てかもうこんな時間じゃねーか」
「そやね。塾行かな」
額に触れた手が離れた。
居心地の悪さの変わりに一抹の寂しさを感じて首を傾げる。
「結局予習できへんかったなぁ」
「やる気あったのかよ……?」
あははははと笑う。どう考えてもやる気がない会話しかしていない。
というかこの広がりもしない綺麗な机が証拠だ。
「おら、塾行くぞ」
放課後の教室で、塾の教室へ繋がる鍵を回す。
そこから先は学校の授業でも、任意所属のクラブ活動でもなくて。
職業的訓練時間――塾の時間だ。